ハードワークに離職率の高さ、低賃金に劣悪な労働環境。

介護士をめぐる環境については、何かと悪い話題ばかりが聞かれます。

特に賃金の低さについてはあらゆる場所で指摘され、介護士はすっかり低賃金職とのイメージが定着してしまいました。

介護士が低賃金なのは実際そうですし、介護業界ならではの事情もありますが、中でも専門性を認知されていないのは大きな理由の1つ。

介護士は本当に専門性がなく低賃金が妥当な仕事なのでしょうか。

今回は、介護士が低賃金である理由の1つである専門性について、背景や理由を探っていきます。

介護業界の人手不足が加速するのは低賃金だから

介護業界ではご存じの通り深刻な人手不足が問題視されています。

高齢化にともない需要がますます増えることが予想されるにもかかわらず、介護業界の低賃金が追い打ちをかけるようにして人手不足が加速しています。

介護業界で離職率が高いのは、ハードワークや労働環境が原因と指摘されていますが、やはり低賃金であることは大きな要因。

どんなに介護の仕事に誇りがあり、モチベーションを高く保って取り組んでいても、実際問題として生活が苦しければ辞めざるを得ないからです。

介護士の低賃金は専門性の認知度が低いことが原因

介護士が低賃金であることの理由は、介護報酬の影響や事業主の搾取の問題などさまざまな問題点が指摘されています。

もちろん、そうした原因も大きいわけですが、「介護士の専門性」という点も1つの理由です。

介護士は一般的なイメージとして、専門性が低く誰にでもできる仕事だと思われやすいのが現状です。

そのイメージが国が定める介護報酬や事業主の給与決定にも影響を与え、「介護士の給与はこのくらいでいいだろう。」と低賃金になっているのではないでしょうか。

介護士は専門職ではないの?

介護士が専門職かどうかについての議論がされることがあります。

そもそも専門職の定義は明確ではなく、独占業務ができる資格があれば専門職だという人もいれば、国家資格があれば専門職だという人もいます。

資格があっても、その業務を遂行するために必要な知識やスキルを発揮できていないなら、専門職とは言えないかもしれません。

介護士についても同様ですが、少なくとも自分で専門職と言えるには、プロ意識を持っているかどうかが1つの分かれ目になるのではないでしょうか。

「わたしは介護士という専門職でプロとしての自覚を持って日々業務に取り組んでいます。」と自信を持って言えるなら、立派な専門職となるはずです。

介護士の専門性が認知されにくい理由

介護士の給与が上がるには、専門職としての地位が確立されることが必須です。

介護士自身が専門性を磨くために知識やスキルを得る努力も大切だと言えるでしょう。

しかし、実際の介護現場ではすでに専門知識やスキルを元にさまざまな介護業務が実施されています。

すでに専門性があると言ってもいいのにもかかわらず、なぜ介護士の専門性は認知されていないのでしょうか。

ここからは、介護士の専門性が認知されにくい理由を探ります。

未経験者も応募しやすい仕事

介護士の求人を見ると「未経験者も歓迎します。」との文言が書かれていることが多いです。

これは、未経験者を限定して欲しいわけではなく、「本当は経験者がいいけど人手不足だから」未経験者にまで門戸を広げているのです。

人手不足が深刻化している以上、未経験者であっても意欲のある人は採用したいのは言うまでもありませんよね。

しかし、こうした採用ハードルの低さが「どんな人でもできる仕事」との認識につながりやすくなっています。

資格がなくてもできる業務が多い

介護業界では「介護初任者研修」「実務者研修」「介護福祉士」「ケアマネージャー」の4つの資格を柱として、資格がなければできない業務があります。

特に訪問介護は無資格ではできず、最低でも介護初任者研修修了は必要です。

一方で、食事の支度や洗濯に買い物、シーツの取り換えや清掃など、無資格でもできる業務も多く、専門的な知識やスキルが不要だと思われがちです。

他職種との差が明確

介護業界には介護士以外にもさまざまな職種が働いています。

同じ業界で働いているにもかかわらず、他職種との賃金格差がわかりやすいのも介護士の特徴。

特に、介護士募集と同時にされることも多い看護師との格差は大きいものがあります。

介護士と看護師の給与や待遇は、保有資格や施設によって差があるものの、1.5~2倍近く差がついていることも一般的。

医療行為ができる看護師の賃金が高いことは当然とは言え、同じような業務も多い中で歴然な差がついていることで、「看護師は専門職、介護士は専門性がない」と認識につながっています。

年齢が高い人材でも受け入れられやすい

現在の転職市場は活性化しており、一昔前までは採用されにくかった30代、40代のミドル層でも転職のチャンスがある時期です。

とはいえ、やはり40代、50代になると転職が厳しくなる現実もあり、仕事の選択肢が狭まっていきます。

そんな中、年齢関係なく転職しやすい仕事の1つとして介護士が挙げられています。

人手不足の介護業界では年齢を限定することで人が集まりにくいため、年齢問わず募集する傾向にあるからです。

介護士の仕事は体力が必要のため若い方に適しているのですが、実情とは裏腹に年齢が上がっても転職しやすい仕事と思われています。

介護はかつては家族の仕事と位置づけられていた

介護士の専門性が認知されにくいのは、日本の歴史的背景も関係しています。

今でこそさまざまな施設や訪問サービスで介護をすることが一般的ですが、かつて介護は「家族の仕事」と位置づけられていました。

家族の中で要介護者がでた場合、そもそも何の知識もスキルもない家族が介護を担っていたことから、専門職ではないとの認識が浸透しています。

しかし、今と昔では介護を取り巻く環境は大きく変わっています。

昔は一家族の人数も多く、女性が家を守ることがほとんどでした。

平均寿命も今ほど長くなかったため、介護が必要になる前に亡くなるケースも多かったでしょう。

今は核家族化が進み、介護の担い手となる若い人材と高齢者が別々に暮らしていることもよくあります。

少子化の影響もあり、1人にかかる介護負担が大きくなっています。

女性活躍社会で、仕事と介護の両立は容易ではありません。

現代においては、介護を家族の仕事と位置づけるには無理があるにもかかわらず、昔からのイメージから「介護=家族が担うもの」と思われ続けています。

介護士が専門性を認知されるには

介護士は専門性をアピールすることで、一般的なイメージを払拭し、専門職としての地位確立と賃金アップにつなげりべきです。

ここでは、介護士が専門性を認知されるために必要なことを紹介します。

資格は無駄じゃない!資格を名乗ることの大切さ

介護業界で働く人の中には「資格によって業務内容が変わるわけでもなく、資格を取得して評価されるわけでもないから無駄。」と考える人が多くいます。

実務経験年数が必要な介護福祉士の資格を取得しても、介護福祉士でないとできない仕事はないとも言われています。

ただ、同じ業務をするにしても「無資格でこの仕事をやっています。」と言われるのと、「介護福祉士としてこの仕事をやっています。」と言われるのとでは、利用者や家族から見た信頼性は大きく異なります。

利用者や家族から信頼されることで評判が広がり、事業所全体の利益にも貢献することになります。

資格自体が業務内容や給与に直接反映されなかったとしても、学んだことは必ず業務に活かすことができ、結果として介護士としての評価につながることになります。

プロとしての自覚を持つこと

介護業界は低賃金や待遇の悪さが指摘されながらもなかなか改善されず、国が決める介護報酬の影響を受けることなどもあり、「諦めモード」の雰囲気も感じられます。

介護士自身が「こんな仕事は誰にもできる。」と自虐的に思ったり人に話したりすることで、介護士経験がない外部の人や若者たちが介護士への評価を下げていきます。

実際に介護の現場を見てみると、「これは自分にはできない仕事。」「こんな大変な仕事をやっていて立派。」といった感想を持つ方も多いです。

それは、担当してくれた介護士がプロ意識を持って丁寧な仕事ぶりを披露してくれるから。

介護士が専門性を認知され賃金アップにつなげるには、介護士たちのプロ意識が必要なのではないでしょうか。

最後に

いかがでしたか?

介護士が低賃金である理由の1つである専門性について、背景や理由を探ってきました。

介護士の賃金アップには、国の政策や事業主の努力や工夫が必須ですが、介護士自身がプロとしての自覚を持ち、知識やスキルを磨くこともまた必要ではないでしょうか。