元スポーツ選手の転職先と言えば、キャスターやプロチームの監督、コーチ、解説者などを思い浮かべるかもしれませんね。
スポーツ選手としての人気と実力があり、職種への適性があるなら可能ですが、こうしたキャリアを選べるのは、ごくごく一部のスポーツ選手に限定されます。
現実問題として、安定や満足のいく収入を得続けることも難しい面もあり、結婚して家庭を持っている方は選びにくいキャリアとも言えるでしょう。
では、元スポーツ選手がサラリーマンとして民間企業に転職するにはどうすればいいのでしょうか。
今回は、元スポーツ選手の転職事情を紹介します。
元スポーツ選手が民間企業に転職するのが難しい4つの理由
元スポーツ選手は現役引退後、民間企業で一般的なサラリーマンと同じような働き方をすることが考えられるキャリアとなりますが、厳しい現実も待ち受けています。
スポーツの世界で活躍した選手が月収10万円台の仕事に就くといった話題も聞かれますが、一体なぜ転職が難しいのでしょうか。
ここでは、元スポーツ選手が民間企業に転職することが難しい理由を紹介します。
1.活かせる経歴がない
転職市場ではよほど若い人材でない限り、前職の経験や、すでにあるスキルを活かせる即戦力人材を求めています。
元スポーツ選手はそのスポーツにこれまでの人生を捧げてきたため、スポーツ以外の経験がありません。
社会人チームなどで仕事と練習を両立させてきた人材ならビジネス経験が活かせますが、スポーツだけに没頭できた環境下だったなら厳しいものがあります。
大学生くらいになればアルバイトの1つや2つ経験している人が多い一般社会において、アスリートとして絶頂期ともいえるその年代に、寝食以外のすべてをトレーニングに費やしてきたことでしょう。
フリーターや第二新卒といった若手人材の転職ではアルバイト経験をアピールすることが多いですが、元スポーツ選手はそれすらできないことになります。
2.一般的な教養が身についていない
元スポーツ選手の中でも頭脳明晰、学歴も高いといった人材はいますが、一般的にはスポーツ以外のことは知らない方も多いです。
進学は推薦枠を利用したり、高卒でプロチームに入ったりするため、勉強をする時間がないからです。
一般的な教養が身についておらず、文書の作成や簡単なパソコン操作1つできないケースも多くあります。
こうした人材は新卒同様の扱いとなるため、教えるコストがかかりますから、すでに年齢が高いと厳しいものがあるでしょう。
3.ニーズよりも希望を優先したがる
転職とは、企業側のニーズと応募者の経験、スキルがマッチしたときに採用決定となります。
企業がどんな人材を求めているかを知り、自身と照らし合わせたうえで応募することが基本でしょう。
しかし、元スポーツ選手は自分がやりたいことにこだわり過ぎてしまい、求人数が圧倒的に少ない、求められるスキルが高いといった難しい転職を望もうとします。
成功確率が著しく低い転職活動となるため、なかなか転職が決まらずその間経済的に困窮することもあります。
ニーズを把握し、それに合わせて自分をアピールしていかなければ、転職成功は先の話となってしまうでしょう。
4.転職活動の方法がわからない
元スポーツ選手はほとんどの方が初めての転職活動です。
転職どころか就職活動経験もない人が多いため、具体的に何をすべきかがわからないのです。
とりあえず家族に聞いて履歴書を書いてみる、ハローワークに行ってみるといったことをやってみるでしょう。
求人票の見方、優先順位のつけかた、企業研究の仕方などわからないことだらけなので時間がかかります。
悶々としたまま転職活動を続けるため、納得できる企業に出会いにくいとも言えるでしょう。
元スポーツ選手が民間企業への転職で評価される6つの点
元スポーツ選手が引退した後の転職は非常に厳しいものがある一方で、人によっては、あっという間に複数内定をもらうほど成功確率が高いケースもあります。
元スポーツ選手は企業からの注目を集めており、「スポーツ経験がある人が欲しい。」と言う人事担当者もいるくらいです。
スポーツにすべてを捧げてきたために、ビジネスでの経歴も専門的なスキルもないはずの元スポーツ選手が、民間企業で評価されるのはどんな点なのでしょうか。
自信を持って転職活動に臨むためにもぜひ知っておきましょう。
1.挨拶や礼儀、言葉遣いが素晴らしい
元スポーツ選手は挨拶、礼儀、言葉遣いが、スポーツをやってきていない人より長けています。
厳密に言ってしまうと、元スポーツ選手の言葉遣いは、敬語の使い方が間違っていたり、日本語としておかしいこともあります。
しかし、圧倒的に「相手に敬意を示す」言葉遣いができるという特徴があります。
スポーツ選手は幼い頃から運動部やクラブチームに所属し、先輩やコーチの厳しい指導を受けてきました。
今でこそ厳しい指導が疑問視される時代になっていますが、昔はそれが当たり前。
口先だけでいくら敬語を使っても、少しでも不満気な表情をしたり声が小さかったりすればすぐに怒られたものです。
そのため、言葉以外でもでこちらを敬う態度が伝わるため、とても感じがいいのです。
完璧な敬語でも、冷たくてどこか見下したような態度の人と、多少敬語の使い方が違っていても、とても謙虚で礼儀正しい人、どちらにいい印象を抱きますか?
ビジネスには人が関わっているため、後者の方が圧倒的に評価されます。
2.メンタルが強い
新卒の就職活動では体育会系出身者が評価を得やすいと言われることがありますが、その1つにメンタルがあります。
スポーツ選手は地味で辛く厳しいトレーニングを耐え抜き、一発勝負の舞台で高い精神力を発揮します。
メンタルの強さで言ったら、他の応募者とは比較にならないものがあります。
今は転職がごく当たり前におこなわれる時代なので、少しでも嫌なことがあるとすぐに転職を考える人材が増えてきました。
企業側からすれば、どんなに優秀で実績がある人材でも、耐性がなく早期で辞められてしまっては全く意味がありませんよね。
最初のうちは使いものにならなくても、強い精神力があれば何度でも諦めずにチャレンジし、高いスキルを手にすることも可能でしょう。
人事担当者は元スポーツ選手のメンタルに大きな期待を寄せています。
3.コミュニケーション能力が高い
スポーツは他者とのコミュニケーションによって大きな結果を残すことができます。
団体スポーツはもちろん、個人スポーツの場合でも、コーチやサポートメンバー、取材陣への対応など人とのコミュニケーションが多数発生します。
無口で孤高なイメージが強いスポーツ選手であっても、日々の練習の中では必ず何かしらのコミュニケーションを取っているのです。
このため、元スポーツ選手と話をすると反応がいい、元気で明るい返事を受けることがあり、仕事を教える側の人間も教育モチベーションを保つことができ、教えやすいと感じます。
スポーツ選手特有の人間性もあり、他部署や取引先から可愛がられることもあります。
コミュニケーションの中で垣間見える「人間力」の高さは、多数の人の支えを必要とするスポーツの世界で戦ってきたからこそ培われたものでもあり、一般の人にはない魅力と言えるでしょう。
4.協調性がある
団体スポーツをしてきた方に優れているのは協調性です。
選手はチームの中での自分がどんな役割を持つのか常に考えていますし、協調性がないことで選手を外されることもあります。
長い間選手として活躍してきた人は協調性に長けているため、転職先でもなじみやすいのです。
ビジネスにおけるチームワークの重要性は言うまでもありませんが、協調性に欠ける若手が多いのも事実です。
多様化が受け入れられた時代で、さまざまな価値観を持つ人がいることはいいのですが、会社組織の中において自我が強すぎる人はやっていけません。
自己主張と他者との協調のバランス感覚がなければ、会社員として成果を挙げることはできないでしょう。
元スポーツ選手は協調性が高いため、人事担当者が好印象を抱きやすくなります。
5.将来的なリーダーシップに期待できる
スポーツの世界でチームや後輩をまとめた経験がある若手人材なら、将来的なリーダーシップにも期待ができます。
元スポーツ選手でチームを引っ張ってきたことがあるなら、ビジネスでのチームリーダーの資質は十分。
現役時代は、チームメイトがついてくるような努力や工夫をしてきたことでしょう。
ビジネスの場でも応用できるため、基礎力が身についたらリーダーに抜擢されることもあります。
6.語学力を活かしてもらえる
世界を相手に戦ってきたスポーツ選手なら、チームメイトとのコミュニケーションや現地取材陣への対応に必要な語学力を備えていることがあります。
今やビジネスの世界で語学力は必須スキルの1つであるため、大きくアピールできるポイントになるでしょう。
特に、スポーツ関連の商材やサービスを扱う民間企業への転職を考えている方は、語学力があると求人の選択肢が広がります。
スポーツ関連企業では語学を活かした仕事が多いため、語学力が全くないという方は、スポーツ関連以外の業界を探すことも必要になるでしょう。
まだ若い方なら今からでも語学力を身につけることも視野に入れたいところです。
元スポーツ選手からの転職に向いている職種
元スポーツ選手の転職は職種によって向き不向きがあります。
スポーツの世界で鍛えた忍耐力と向上心があればどんな職種へのキャリアチェンジも可能ですが、特に親和性が高い職種を見ていきましょう。
営業
営業職は元スポーツ選手に適性が高い職種で、実際に転職する人も多いです。
スポーツ選手は目標設定とそのために必要な努力をおこなうということを、幼い頃から当たり前にやってきました。
いつ結果がでるか分からない努力を日々コツコツと積み重ねてきたことでしょう。
営業も同じように目標設定や日々の地道な努力が求められる仕事です。
契約を断られ続けたり、取引先から怒号を浴びせられても、忍耐強く続けていく力が必要になります。
接客業
元気で明るく感じがいい、まさに接客業に必要な要素を兼ね備えているのが元スポーツ選手です。
人としての魅力もあるため、ファンがつき、リピーターや売上アップに貢献することもできるでしょう。
基本的に立ち仕事の接客業は体力が必要なので、その点でも元スポーツ選手の素養を活かすことができます。
スポーツコーチ、ボディトレーナー
引退してもスポーツに携わりたい方はプロチームの監督やコーチ業を目指すケースが多いですが、選手としての知名度やコネクションがなければ難しい側面があります。
ただし、民間企業のフィットネスジムやスクールなどでスポーツコーチ、ボディトレーナーを目指すなら、比較的求人数が多くスポーツ経験を大いに発揮できるでしょう。
元スポーツ選手という肩書を元に努力すれば、人気コーチやトレーナーになることも可能です。
スポーツ用品の販売、製造
スポーツの世界に関わり続けるには、長い目で見ると身体的な点で続けにくいというデメリットがあります。
コーチやトレーナー業は自身の体も使った仕事になるため、40代、50代と続けることは簡単ではありません。
この場合、スポーツ用品を扱う企業で働くという方法があります。
スポーツ経験者の視点から販売や製造に携わることで、ニーズにフィットした提案や商品が生まれることになるでしょう。
宅配ドライバー
体力とフットワークの軽さ、挨拶や礼儀正しさなどが活かせる職種が宅配ドライバーです。
ドライバー職は人手不足のため求人も多く、元スポーツ選手なら適性が高いため採用される可能性も高いでしょう。
スポーツではありませんが、体を常に動かしている仕事なので楽しく取り組むこともできます。
元スポーツ選手が希望の職種に転職するには?
元スポーツ選手には非常に適性の高い職種がありますが、希望の職種にこだわって転職しようとすると、経験やビジネススキルのなさがネックになって転職が難しいこともあります。
希望の職種がある場合、どうすればいいのでしょうか。
不足しているスキル知識があれば学ぶ
元スポーツ選手の中には、現役引退後に大学に入って学び直したり、独学で勉強して必要なスキル知識を身につけたりして、希望の職種に転職した人もいます。
自身が希望する職種で不足しているスキル知識があり、本当にその職種に就きたいなら向上心を持って学ぶことも必要になるでしょう。
今あるものを活かそうと思うなら、職種の選択肢は狭くなります。
前述したような職種に応募する方が早期転職が叶うはずです。
現役以上に熱中できる仕事はないと思っておくことも必要
スポーツ選手になるほどなら、本当にそのスポーツが好きでやって続けてきた方が多いでしょう。
引退して目標を見失うことは辛いことですが、新しい目標のハードルを上げ過ぎないことも大切です。
元スポーツ選手にありがちなのは、現役同等かそれ以上に熱中できる仕事を探そうとしてしまい、転職活動をしていても納得できず、なかなか転職先が見つからないということです。
現役以上に熱中できる仕事はないと思っておいた方が、長い目で見て働き続けられる仕事との出会いにつながります。
長年そのスポーツだけに力を注いできたのだから、それ以上のものはそもそも簡単に見つかるはずがないのです。
肩の力を抜いて、いい意味での「諦め」も大切になってきます。
スポーツ選手時代の態度が悪かったならあらためる努力を
元スポーツ選手の中でも、現役時代に挨拶や礼儀、言葉遣いを叩きこまれた人がいる一方で、実力があることであぐらをかいてしまったり、周囲への感謝の気持ちを忘れてしまう人もいます。
具体的には横柄な態度や言葉遣い、遅刻といった社会常識のなさに表れます。
そうした現役時代を送ってきてしまったなら、残念ながら企業が求める元スポーツ選手の人物像に合致しません。
民間企業への転職はさらに厳しいものがあると思っておきましょう。
しかし、今後何十年と働くことを考えたら、今このタイミングで態度をあらため、新しい人生を歩む覚悟を決めれば決して遅くはありません。
先輩や同期の話を幅広く聞くこと
自分より先に現役引退した先輩や同期から多くの話を聞くことも効果的です。
1人ではなく、できるだけ多くの人と会ってスポーツ選手の引退後のキャリアを聞いてみましょう。
同じスポーツ選手だからと言って同様の仕事に適性があるわけではありませんが、共通したポテンシャルを持っていることが多いためきっと役立ちます。
話を聞く際は視野を広く、柔軟な姿勢で聞いてみることを心がけましょう。
スポーツの世界における人脈を大切にすることで、思いもかけない仕事を紹介されることもあります。
こだわり過ぎず新しい人生を探すことも大切
スポーツ選手はこれまでの人生のほとんどをスポーツに捧げてきたことから、強いこだわりを持つ人もいます。
同じ世界で生き続けることこそが人生のすべてだと感じるならいいのですが、他の選択肢もあると思えるなら職種にこだわり過ぎないことも大切です。
練習に取り組む集中力や心身の強さがある元スポーツ選手ができる仕事は多いのです。
第二の人生は可能性に満ちているのですから、前向きな気持ちでキャリアチェンジを考えてみてはいかがでしょうか。
転職はプロの力を借りること
元スポーツ選手の転職活動は、一般的に知り合いのツテを頼ったり、実家の家業を継いだりすることが多くなりますが、それだと選択肢が狭まります。
知り合いの手間、合わない仕事だと思ったときに辞めにくいというデメリットもあるでしょう。
本当にやりたい仕事を紹介してもらえるなら別ですが、どんな可能性があるのかを知りたいならプロを頼るべきです。
近年は転職エージェントを使った転職活動が広くおこなわれていますが、元スポーツ選手のキャリアに特化した転職エージェントもあります。
特徴としては、体育会系出身のキャリアコンサルタントが在籍していること、元スポーツ選手などのアスリート人材を欲している企業の求人が多く見られることです。
求人紹介、書類作成、面接対策まで全面的にバックアップしてくれますから利用を検討してみましょう。
最後に
いかがでしたか?今回は、元スポーツ選手の転職事情を紹介しました。
元スポーツ選手が民間企業でサラリーマンとして働くには、高いポテンシャルから指名を受けやすい点と、ビジネス経験のなさから採用を見送られやすい点とが混在しています。
企業側の視点に立ち、自身を採用することのメリット、デメリットを整理することで、元スポーツ選手の特性をアピールできるでしょう。