薬剤師の転職先として調剤薬局を考える方は、薬局の「規模」に着目してみることで自身との相性が見えてきます。

必ずしも大手がいいわけではなく、小規模や中堅の薬局にもいい点、悪い点があるというもの。

そこで今回は、薬剤師が転職する調剤薬局を小規模、中堅、大手に分けて、それぞれにどんなメリット、デメリットがあるのか紹介します。

小規模、中堅、大手の定義

調剤薬局の規模については何をもって小規模や中堅、大手と言えるのかは、売上高や人員数のほか、それぞれの価値観にもよります。

今回お伝えする調剤薬局については、下記のようなイメージを持っていただければと思います。

  • 小規模調剤薬局…単一店舗または2~3店舗展開の地元密着型
  • 中堅調剤薬局…都道府県内または地域内でのチェーン展開をする薬局
  • 大手調剤薬局…全国にチェーン展開する調剤薬局

薬剤師が小規模調剤薬局に転職するメリット

まずは小規模調剤薬局について見ていきます。

小規模調剤薬局は、一般的に転職先や就職先としては人気が低いですが、規模が小さいなりのメリットもあります。

単純に知名度や条件だけに目を向けるのではなく、その魅力も考えておきましょう。

一体どんなメリットがあるのでしょうか。

少人数体制でアットホームな雰囲気

チェーン展開しておらず規模も小さい調剤薬局では、薬剤師やその他のスタッフ数が少ないため、アットホームな雰囲気の中で働くことができます。

特に人間関係への影響が大きく、相性のいいスタッフ同士だと仕事が非常にやりやすいでしょう。

薬剤師が経営者だけだと、まるで自分の子供のように手塩にかけて育ててくれるケースもあります。

利用者も地元に密着した方が多く、朗らかな雰囲気。

利用者に名前を覚えてもらったり、いつも気さくに話しかけてもらったりと可愛がってもらえる場合もあります。

転勤や異動がない

単一店舗の場合、転勤や異動はありません。

同じ場所で長く働き続けたい方には大きなメリットでしょう。

若い薬剤師や配偶者が転勤族の家庭にはあまり向かないですが、ある程度年齢が上がってきたことで場所を固定化させて働きたい薬剤師、パート薬剤師として自宅近所で働きたい方には向いています。

環境の変化に対応するの苦手だという方も、小規模調剤薬局の方が精神的に落ち着いて働くことができます。

経営者と近いため意見が届きやすい

小規模調剤薬局は、薬剤師が経営者と自分だけというケースもあります。

いても数名の薬剤師でまわすため、薬剤師同士の結束は強まります。

経営者と近い距離で接するため、経営者に意見が届きやすいのも魅力。

よき経営者に恵まれれば、仕事へのやりがいをダイレクトに感じやすいと言えます。

大手チェーン調剤薬局になると、経営者と直接接したり、意見を述べる機会すら与えられません。

経営者との距離感が近いのは、将来的な独立を考えている方にとっても、経営者視点で業務に取り組むことができて勉強になります。

薬剤師が小規模調剤薬局に転職するデメリット

続いては、薬剤師が小規模調剤薬局に転職するデメリットです。

小規模調剤薬局は主に待遇面や将来性へのデメリットがあるため、安定性を求める方にはリスクがあると言えます。

給与や福利厚生に期待できない

小規模調剤薬局には、大手のような給与や福利厚生には期待できません。

よほど景気のいい店舗でない限り、賞与はあればいい方だということも。

退職金はないこともあるため、金銭的なメリットは感じにくくなります。

そもそも正社員ではなくパートで雇用される可能性もあるため、薬剤師としてバリバリ稼ぎたい人には向いていません。

合わない人がいると仕事そのものが嫌になる

職場の規模が小さいと、人間関係が濃密になりがちです。

アットホームな雰囲気が合う方もいれば、距離感の近さに戸惑う方もいるでしょう。

規模が小さいことで、一人でも合わない人がいると職場に行くのが苦痛になりやすい面があります。

職場における人間関係は仕事への影響力が大きいもの。

仕事内容や待遇に満足できても、人間関係がネックになって辞めてしまう人もいます。

閉店リスクがある

チェーン展開する調剤薬局に比べ、数店舗や単一店舗の小規模調剤薬局では閉店リスクが高くなります。

資金力がありさまざまなサービス提供ができる大手に比べて利用者から見た価値が下がるため、経営が立ち行かなくなることも。

単一店舗の場合は経営者の高齢化によって閉店を余儀なくされるケースもあります。

長い目で見て安定的に働けるとは言い難いでしょう。

アナログ作業が多くなる

小規模調剤薬局では基本的に人力での作業が多くなります。

作業効率を上げるためにシステムを導入したり、最新設備を取り入れることも少ないです。

アナログでも対応できてしまうだけの規模なので仕方がないのですが、今後転職可能性があるなら、他に行ったときに役に立たないことも多いです。

休みが自由に取れない

薬剤師数が少ない小規模調剤薬局では、休みが自由に取りにくいことがあります。

有休はあってないようなもので、どうしても体調が悪いときにだけ使える程度。

旅行に行くなどプライベートを充実させるのは難しいかもしれません。

ただ、これは経営者次第でもあります。

理解のある経営者の元であれば、小規模であることが逆に優位に働き、休みや勤務時間の融通がききやすくなるケースも考えられます。

薬剤師が中堅調剤薬局に転職するメリット

続いては、薬剤師が中堅調剤薬局に転職するメリット、デメリットを見ていきましょう。

まずはメリットから。

中堅調剤薬局では、他の規模に比べて「バランス」に優れています。

それなりの充実感を得やすい

中堅調剤薬局は、業務量は比較的多く忙しい店舗もでてきますが、薬剤師数もそれなりにいるため、休みなどには対応してもらいやすくなります。

仕事内容も小規模調剤薬局に比べて幅広いですし、大手ではない分、個人の裁量権もあります。

ちょうどいいバランスで仕事への充実感が得やすいと言えるでしょう。

転勤が少ない、あっても地域が変わらない

中堅調剤薬局は地域内で店舗展開しているため、転勤が頻繁におこなわれることはありません。

あっても同一地域内なので、転居が伴うケースは少ないと言えます。

小規模調剤薬局のように逃げ道がないわけでもなく、大手調剤薬局のように転勤リスクが高いわけでもないため、安心して働くことができます。

地域医療への貢献度が大きい

中堅調剤薬局では、都道府県内や地域内でチェーン展開しているため「そこそこ」の規模ですが、その地域における知名度は大手以上のものがあります。

他の地域住民から見た知名度はなくても、その地域内では抜群に知られているため、大手で働いているかのような社会的信頼も得られやすくなります。

その地域への貢献を考えるなら、大手より中堅調剤薬局の方が実感を持てると言えるでしょう。

薬剤師が中堅調剤薬局に転職するデメリット

中堅調剤薬局は、小規模調剤薬局に比べて働きやすい環境が整っているものの、大手のような充実度まではなく、なにかと中途半端になりがちです。

ここからは、薬剤師が中堅調剤薬局に転職するデメリットを紹介します。

将来的に買収されるリスクがある

大手が中堅調剤薬局を買収するケースがあるため、将来的には買収されて労働条件などが大きく変わる可能性もあります。

今の環境が気に入っていても、会社の方針が異なることで納得できない場面がでてくるかもしれません。

ただし、従業員にとっては、労働条件改善など、買収がメリットになるケースもあるため、どちらに転ぶかは分からないと言えます。

マニュアルが整備されていないのに業務量がそこそこある

小規模調剤薬局であれば1日の業務量が多くないため、一人体制でも十分対応できるでしょう。

中堅調剤薬局では業務量はそれなりにあるのに、大手のようにマニュアルや研修がしっかり整備されているわけではありません。

個人の裁量でなんとかしないとならないこともでてきます。

きちんと担当分けやマニュアルが整備されている中堅調剤薬局でないと、ごちゃごちゃとした印象で中途半端な仕事ぶりにつながってしまうでしょう。

個人への業務負担や責任が重くなる

調剤薬局に限らず一般企業でも見られる傾向ですが、中堅企業だと、個人への業務負担や責任が重くなります。

大手に比べて個人の裁量権があり、幅広い仕事に携わることができるため「やりがい」はあるのですが、仕事が「組織」ではなく「人」についてしまう傾向に。

いざというときに休んだり辞めたりがしにくいのはデメリットと言えるでしょう。

薬剤師が大手調剤薬局に転職するのメリット

ここからは、大手調剤薬局について紹介します。

まずは、大手に転職するメリットについて見ていきましょう。

研修制度が充実している

大手の場合は研修制度が充実しており、薬剤師数もしっかりいるため、教えてもらいやすい環境です。

調剤薬局への転職が初めての方や、丁寧に教えてもらいたいという方には大きなメリットです。

科目数が多く仕事の幅が広がる

大手調剤薬局では担当する科目数も多く、幅広い仕事ができる可能性があります。

社内の勉強会が定期的に開催されるため、小規模調剤薬局に勤務する薬剤師のように個人的に勉強しなくても済みます。

薬剤師数が多いことで学ぶ機会も多数あり、向上心が高い人には向いていると言えるでしょう。

休みの融通がききやすい

大手の場合は人員管理を組織的におこなってくれるため、急な休みでも代わりがいます。

他店舗からのヘルプや派遣スタッフが担当してくれるからです。

労務管理がしっかりしていて有休取得がしやすいのもメリット。

連休を取得して家族や友人とゆっくり過ごすこともできるでしょう。

年収が高く福利厚生に充実している

大手はやはり年収が高く、福利厚生にも恵まれています。

扶養手当や住宅手当といった年収に直結する手当が充実しており、賞与や退職金についても小規模や中堅調剤薬局に比べて高い水準です。

金銭的な満足感が得やすいと言えるでしょう。

薬剤師が大手調剤薬局に転職するデメリット

続いては、大手調剤薬局に転職するデメリットです。

転職するなら絶対に大手と考える方も多いですが、デメリットもあり、自身との相性の問題もあります。

必ずしも大手がいいとは限りませんので慎重に考えるようにしましょう。

仕事が忙しくなりやすい

大手調剤薬局は利用者からの知名度や信頼度があり、複数科目を担当するため、業務は多忙になります。

一人一人の利用者に丁寧に接したい方は、その余裕がなくなる可能性があるでしょう。

とはいえ、病院のように当直や夜勤はなく、どの規模でも残業は少なめですので、忙しく動き回りたい人にとってはちょうどいい業務量かもしれません。

全国転勤の可能性がある

大手は全国に店舗がありますので、正社員の場合は全国転勤の可能性があります。

独身の若手薬剤師はいいのですが、持ち家を購入した薬剤師や家族の状況で動きにくい薬剤師にはデメリットです。

大手調剤薬局チェーンでも、地域を限定した正社員求人もあります。

現在の居住地を離れられない方は、そうした求人を探すといいでしょう。

組織内の決まりごとが多い

大手は組織内で決められたルールが徹底されています。

現場の薬剤師として柔軟に対応したいことでも、ルールから逸脱しているという理由で却下されることもしばしば。

自身がやりたい仕事があっても上からの命令が絶対なので、ある程度自分を抑える必要性もでてきます。

個人の裁量権をもって自由に仕事がしたい薬剤師は、小規模や中堅も選択肢に入れておくべきです。

売上に厳しい

大手は売上至上主義なので、本当に利用者の立場にたった提案ができないことがあります。

大手に就職し、自身の求める理想とギャップを感じて辞める薬剤師もいます。

薬剤師の仕事をビジネスとして考えられるタイプかどうかも、大手への転職希望者なら考えておきましょう。

薬剤師がキャリアの方向性に迷ったら

小規模、中堅、大手と、調剤薬局一つとってもさまざまなメリット、デメリットがあります。

これに加え、病院にドラッグストア、企業まで選択肢に入れてしまうと、転職先の方向性が見えず立ち止まることになります。

薬剤師がキャリアの方向性に迷ったら、キャリア支援のプロである転職エージェントに相談しましょう。

特に薬剤師の転職に強いエージェントなら、業界事情に詳しく、企業ごとの内情も把握しているため、個人の適性を考慮したアドバイスをくれるはず。

具体的な応募段階でも、書類添削や面接対策などサポート体制が万全なので、上手に使ってみましょう。

最後に

いかがでしたか?薬剤師の転職先として人気の調剤薬局について、規模別のメリット、デメリットを紹介しました。

どの大きさの調剤薬局を選ぶかは、自身が転職に何を求めるかによって変わってきます。

もっとも大切にしたい基準を見極めたうえで判断するようにしましょう。