20代の出世意欲はいまだに高いと言われる一方で、30代半ばくらいになると社内における出世の可能性が低いことに気づいたり、出世競争の不毛さを感じるようになったりして、「出世したくない」と考える人が増えてきます。
終身雇用が当たり前だった日本社会では考えられない出世意欲のない人材ですが、その後のキャリアはどうなるのでしょうか。
出世しない場合でも今の会社で定年まで働き続けることはできるのかも気になります。
そこで今回は、出世を希望しない場合に描けるキャリアを紹介します。
出世したくないのはこんな人
まずは、出世意欲がない人材は、なぜ出世をしたくないと思うのか、その理由を探っていきます。
出世したくない人にはどんな特徴があるのでしょうか。
プライベートを大切にしたい
出世意欲が低い人材の多くが口にするのは「仕事だけでなくプライベートも大切にしたい。」ということです。
出世して管理職になれば、自分の都合だけで仕事を休むことができくくなり、責任ある立場上、緊急事態には家族を置いてでも出社しなくてはなりません。
「仕事はそれなりに大事だけど、プライベートはもっと大事。」
こう考える人たちにとって出世は、デメリットでしかないのです。
残業を頑張る人が優遇される社会にうんざり
大手を中心に残業削減の流れができてはいますが、まだまだ大半の企業では、残業を頑張る人が評価され、会社の都合にあわせて働いてくれる人材が重宝されます。
どんなに効率よく働き、高い成果をだしても、結局は残業をダラダラする人の方が一生懸命に見えたり、働く意欲が高いと思われたりするのが実態です。
こうした企業の保守的な体質に、今の働き盛りの人材はうんざりしています。
生産性を上げる工夫をしても、それを評価してくれることばかりではないため、頑張るだけ無駄な企業だと思ってしまうのです。
出世に関しても、単純に仕事量や責任が重くなるだけで、見返りに期待できないと見限ってしまうと言えます。
生活できる賃金がもらえさえすればいい
20代の頃はまだ生活していくのがやっとだった給与も、順調に昇給していって30代くらいになると、生活が苦しいほどの給与からは脱却できていることが多いです。
出世のメリットの1つは賃金が上がることですが、そもそも生活に問題がない程度稼いでいれば、それ以上もらうメリットを感じにくくなってきます。
夫婦共働きが当たり前の現代において、配偶者のどちらか一方が出世して高い賃金を得なくても、夫婦それぞれが「そこそこ」の賃金を得ていれば、それなりに満足感の高い生活が手に入るのです。
賃金アップという出世のモチベーションが薄れているため、出世に意義を見いだせないと言えるでしょう。
副業が忙しい
一つの会社に定年まで働き続けられる保証はどこにもないと誰もが知った今、副業を始める人も増えています。
週末だけ別の仕事をする人から、ネットビジネスをする人までさまざまです。
中には本業以上に稼いでいたり、副業の方が楽しかったりする人もいるため、本業に身が入らなくなります。
出世すれば、休日に接待にかりだされ、副業の時間がなくなる可能性もあるため、「出世しないで副業していたい。」と感じる人もいるのです。
競争したくない
企業の中で、課長以上の役職に就けるのはほんの一握り。
出世競争を勝ち抜いた人だけが手にすることのできる名誉とも言えます。
この、出世競争そのものに嫌悪感を抱く若者も少なくありません。
ゆとり世代、さとり世代などと言われる若者たちの多くは、ガツガツしておらず、人と争ってまで出世したいと感じなくなっています。
最近は義務教育の運動会や試験などでも、順位をつけたり公表したりせず、競争を避ける教育がなされていますから、将来的にも出世意欲の低い人材が増える可能性があります。
出世しないで会社にいるとどうなる?起こり得るリスクを解説
「出世しなくても正社員なのだから今の会社にいればいい。」と当たり前のように思っている人は多いですが、実は出世しないことにはリスクもあります。
出世せず今の会社に居続けると何が起きるのでしょうか。
優秀で意欲的な若手人材に追い抜かれる
30代くらいですでに出世の道を放棄してしまうと、まだまだ出世意欲のある20代若手人材にあっという間に追い抜かれます。
30代でそれなりに給与が上がってきたけど出世意欲がない人材と、20代でまだ給与が低いけど意欲的に仕事に取り組む人材とでは、後者が評価の対象になるのは明白。
サラリーマンは一度入社すれば、経験を積むごとにどんどん後ろから追われる身になる宿命なのです。
役職につかず年齢だけが高い人材は疎まれる
定年まで働くには、段階的に出世をし、年齢に見合った働きをすることが大前提です。
40代、50代で平社員のままだと、下記の理由で、よほどの価値を提供しない限りは次第に疎まれるようになります。
- 年齢が高いため周囲が気を使う
- ベテランなりに上に意見を言う
- 年齢に応じた給与も支払わないといけない
- 若手より物覚えやフットワークの軽さで劣ってしまう
経営状態に余裕がある企業に勤めているならいいのですが、そうでない場合は真っ先に肩たたきの対象に合う可能性が高まります。
現状維持を望む人材を企業が重宝するか?
出世をしたくないということは、「今のままがいい」ことの裏返しでもあります。
定年まで30年、40年とある中、ずっと現状維持を望む人材は、企業の目にどう映るでしょうか。
よく、企業経営において「努力し続けてやっと現状維持ができる、現状維持を望む場合は下がっていくことになる」と言われます。
人材においても同じことで、現状維持を望むだけでは、現状維持すら手にすることができないのです。
こう考えると、出世しないで今の会社に居続けると、企業からの評価が上がることはなく、確実に居心地が悪くなるでしょう。
自ら別の職場での安定を探るようになります。
出世を望まない人と出世したくてもできなかった人の違い
出世意欲がないと会社に居づらくなる可能性がありますが、では、「出世したくてもできなかった人」はどうなのでしょうか。
管理職の枠は少ないですから、企業には必ず出世できなかった人が存在しますよね。
基本的に、望むと望まないとかかわらず、出世しないで同じ会社に居続けることは大変です。
出世希望で叶わなかった場合でも、出世しなかった今後のキャリアについて真剣に考える時期がくるでしょう。
ただ、周囲から見てこんな違いはあります。
(出世を望まない人)
- 自らチャンスを放棄した人
- 努力をしたくない人
- 出世よりも大切なことがある人
(出世できなかった人)
- 出世のために努力をした人
- 不器用だけど頑張り屋
- 出世できなかったかわいそうな人
どう捉えるかは人の価値観によりますが、周囲からの視線が気になる人は、こんな印象を持たれる可能性もあると思っておきましょう。
出世したくない人の今後のキャリア
出世意欲がない人の今後のキャリアは、今の会社に居続けるケースと、環境を変えるケースとに分かれます。
ここからは、出世しない人の今後のキャリアの可能性について探ります。
今の会社で専門職を目指す
まずは、今の会社で出世しない人の王道パターン、専門職を目指すという道です。
最初から出世を狙わず、専門性を高めることで社内での居場所を見つける方法ですが、何の努力もせずに叶う道ではありません。
資格取得をしたり、仕事に直結するスキルを磨いたりといった努力は必要で、向上心がない場合は難しくなります。
単に同じ仕事をやり続けるだけではならず、同じ職場の若手よりずっと高度な仕事ができる専門性が求められます。
今の会社で指導者としての道を探る
管理職にならなくても会社から重宝され、部下や後輩たちからも慕われるケースがあります。
それは、社内における指導者としての立場を確立させることです。
大企業のように教育制度が整っているケースを除き、中小零細企業では教育とは呼べない程度にしか指導してくれないことが多々あります。
せっかく入社したポテンシャルある若手も、指導方法によっては宝の持ち腐れとなり、やる気をなくして離職してしまうことになるでしょう。
小さな職場であっても、一人か二人、しっかり指導してくれる人材がいれば、若手人材にとっては心のよりどころとなり、離職を食い止められることがあります。
「上手に教えて育てる」のは難しいことですが、新しいことにチャレンジできると思えば悪くかもしれません。
今の会社で異動する
職場内ではベテランでも、部署を異動することで、まだ若い立場でいられることもあります。
部署異動には出世を伴うものと、完全に出世コースから外れるための異動というものがあり、狙うは後者です。
出世とは縁遠い部署に異動することで、会社員としての立場は守られつつ、出世を逃れることができます。
ただ、出世を希望しない「現状維持派」にとって、周辺環境が大きく変わる異動もまた、ストレスになる可能性はあります。
必ずしも異動の希望が通るわけではない点もネックになるでしょう。
可能な限り今の会社にいて副業に精を出す
専門性を高めるための努力もしたくない、指導者になったり異動したりといった変化も求めない場合、今の会社に居続けられる可能性は下がります。
会社から悪い評価をもらわない程度に仕事を真面目にこなしていれば、解雇されるリスクは高くはないものの、周囲の「今後どうしたいの?」の視線がきつく感じることはあるでしょう。
ただし、上司によっては、出世意欲がない人を好む場合もあります。
自分の地位を脅かす存在ではないため、使い勝手がいいからです。
上司とそこそこうまくやっていける人なら、現状維持も可能と言えるでしょう。
また、周囲の視線を完全に無視して割り切ってしまうことができれば強いです。
今の会社は安定収入をくれる財布と割り切り、自己肯定感は副業に精を出すことで得る方法もあります。
とはいえ、完全な現状維持を望む場合、今の会社にいつまでいられるかは分かりません。
副業なら副業でもいいのですが、早めに次の一手を用意しておく必要があります。
起業する、フリーランスになる
出世はしたくないけど仕事への意欲は高い場合、起業やフリーランスになる道もあります。
自分の好きなことを仕事にできる夢のある道ですよね。
この場合は会社を辞めることになるため、出世競争からはもちろん、職場内における煩わしい人間関係からも解放されます。
ただ、リスクが高い方法なので、現状を変えたくない人には向いていない一面があります。
安定収入を得ることは難しいため、現状維持することで安心感を得られるタイプは精神的なストレスを感じやすくなります。
いつ無収入になるともわからない不安と戦う覚悟があるかが問題です。
職人になる
伝統工芸の職人、大工、料理人なども、自己のスキルを磨き、よりいいものを世の出すことが最重要ですから、出世とは無縁です。
優れた職人の元に弟子入りすれば絶対的な存在がいるため、他人との出世競争を考えている余裕すらないでしょう。
職人になる場合は、労働というより、技術を磨くためにすべての時間と労力を捧げることになるため、労働者としての概念が薄れやすくなります。
実態として労働基準法の労働者であっても、法律が厳格に守られることは少ないと思っておきましょう。
一人前になるまでに10年単位での努力が必要な、果てしない道でもあります。
転職する
会社員として安定収入を得ながら、出世の道を一時的に放棄することができるのは転職です。
転職して数年は、中途採用者であっても新人。
覚えることも多いため、「出世を目指しますか?」の問いかけを受けることも少ないです。
ただし、転職先でもいずれ時期が来れば、「出世か専門職か」の選択肢を提示されることになり、出世をせずに会社にいることのリスクを抱えることになります。
出世を目指さなくて済む仕事は何?
出世したくないけど安定収入が欲しいから転職する場合、また同じように出世か否かを考えなくて済むために、そもそも出世を目指さなくて済む仕事に就くのも1つです。
ここからは、出世しなくても活躍し続けられる仕事を紹介します。
法律系専門職
弁護士、税理士、司法書士、社会保険労務士など、法律系専門職として働くなら、出世しないパターンも考えられます。
法律事務所の多くは少人数体制で、起業者がすでに所長として君臨しているため、その他の職員は平社員として働くことになります。
何十人も法律家が所属しているような大手事務所でも、個人の力量が問われる特殊な職種なので、出世しない道もごく当たり前に思われます。
法律系専門職に就くには難関試験を突破する必要がありますが、万が一事務所が閉鎖したとしても、自分で開業する道も残されます。
営業職
歩合の営業は会社員でありながら個人事業主側面が大きいため、出世をせず自由きままに仕事をしたい人には向いています。
一部、営業部長などになる人もいますが、トップセールスを誇りながらずっと第一線の営業でいる人もいる職種です。
管理職にならなくても、営業として成果を挙げれば給与に反映されるため、自分が得意な仕事にだけ努力を注ぐことができるでしょう。
営業職の難点は、ノルマや他の営業との戦いがあるということです。
「出世したくないけど仕事への意欲が高い人」でないと、成果を出し続けることは難しいでしょう。
工場勤務
工場勤務も出世したくない人に向いている仕事です。
特に、レーン作業など決まった仕事が多い工場なら、同じことをやり続けることができますし、出世を目指さなくて済みます。
というより、工場ではあまり出世意欲の高い人が多くないという実情もあるため、出世しなくても浮きにくいのです。
大手企業の工場ならコスト削減のために定時帰りや長期連休も普通なので、プライベート重視派にもおすすめです。
転職を考える人の注意事項
今の会社で出世したくないから転職する人は少し注意も必要です。
専門職を目指すなど明確なキャリアプランがない場合、そもそも転職市場で評価されない可能性が高いからです。
単に「出世したくないから転職します」では、雇ってもらえるはずもありません。
出世したくないならないで、「ではどうしたいのか?」を明確に答えられるようにしておきましょう。
時間はかかるかもしれませんが、しっかりと確立されたプランがあるなら、その考えに同意してくれる企業も現れるはずです。
キャリアプランの立て方が分からない方は、転職エージェントなどのプロに相談すると、キャリア面談を通じて今後の方向性を一緒に考えてくれます。
プロのアドバイスを受けることで自分のやりたいことが見つかったと言う方も多いので、相談してみるといいでしょう。
最後に
いかがでしたか?今回は、「出世したくない」人が描けるキャリアを紹介しました。
多様な働き方が広がっている現代では、今回紹介した以外の道もあるでしょう。
大切なのは、出世以外の道を自分がどう切り開くかということ。
出世がすべてではありませんので、自身が納得できる働き方を見つけていきましょう。