「フレックスタイム制」という言葉を聞き、どことなく「自由な感じ」「柔軟な働き方ができそう」とイメージされることがないでしょうか。

フレックスタイム制導入企業は決して多くありませんが、転職を考える業界や職種によっては導入企業と対面することもあるはずです。

そこで今回は、フレックスタイム制の概要や注意点を紹介します。

フレックスタイム制とは

フレックスタイム制をごく簡単に言えば、労働者自身の裁量で、始業・終業時刻をコントロールできる制度のことです。

1ヶ月や1週間など、「清算期間」と呼ばれる期間と、清算期間内におけるトータルの働く時間(総枠)をあらかじめ決めておきます。

そして、1日ごとの出退勤については労働者の裁量に委ねられることになります。

トータルの労働時間は、清算期間内を平均し、1週間の労働時間が原則40時間以内になっていなくてはなりません。

フレックスタイム制の導入には労使協定の締結が必要です。労使協定では次の項目について定めておきます。

  • 対象労働者の範囲
  • 清算期間の長さ
  • 清算期間の起算日
  • 清算期間内の総労働時間
  • 標準となる1日の労働時間
  • コアタイム、フレキシブルタイムの設定など

コアタイム、フレキシブルタイムとは

労働者が始業と終業時刻を決められると、労働者によっては非常にルーズな働き方になってしまうなど、懸念されることもあります。

そのため、フレックスタイム制には、「コアタイム」「フレキシブルタイム」の設定が認められています。

コアタイムとは、「この時間には必ず出勤する」と定められた時間のことです。

たとえば「11:00~14:00の間は必ず勤務すること」などと決めておきます。

フレキシブルタイムとは、労働者の選択により勤務することができる時間帯のことです。

1日24時間のうち、いつ出勤しても、いつ退勤してもよいと決めてしまうと、ある労働者がほとんど誰とも顔をあわせず、職場内や社外との連絡や共有がうまくいかないことがあるでしょう。

光熱費の問題もあります。

そこで、「何時から何時までの間は勤務してください」「何時から何時までの間は出勤しても退勤してもよいですよ」と一定の制限をかけることで、ある程度労働者を管理するわけです。

フレックスタイム制が導入される仕事の特徴

フレックスタイム制を導入してくれればもっと自由に働けるのに…と思うかもしれません。

しかし、制度導入に適した仕事は限定されていますので、なかなか導入している職場が少ないのが実情です。

では、フレックスタイム制はどのような仕事に適しているのでしょうか。

クリエイティブな能力が求められる仕事

工場のレーン作業のように単純作業がメインの仕事や、頭を使うよりも体を主に使う仕事では、フレックスタイム制を導入するメリットがありません。

むしろ、社員たちがバラバラの時間に出勤することで、光熱費がかかったり、作業効率が悪くなったりとデメリットの方が多くなります。

一方、クリエイティブな能力が求められる仕事は、社員にある程度自由にさせておいた方が、その能力を発揮し、よい仕事につながることがあります。

たとえば、エンジニア、記者、編集者、デザイナーなどの職種があります。

営業時間に左右されにくい仕事

飲食店や小売店、病院の受付窓口など、開店から閉店までの営業時間が決まっている形態の仕事は、その時間に人材が必要です。

営業はしているのにスタッフがいなければ、客は帰ってしまうでしょう。

営業職のように、先方の都合が優先される仕事も、フレックスタイム制が馴染まないことがあります。

一方、営業時間が決まっていない仕事はフレックスタイム制を導入しやすくなります。

具体的には、前述したクリエイティブな職種のほか、研究や開発などに携わる仕事、情報通信関係、企画職なども、納期こそあれ営業時間という概念があまりありません。

フレックスタイム制のメリット

フレックスタイム制にはどんなメリットがあるのでしょうか。

生活スタイルにあわせて柔軟な働き方ができる

始業・終業時刻が決められている仕事では、生活スタイルがどうであれ、職場の就業時間にあわせるしかありません。

しかし、フレックスタイム制であれば、子どもを保育園に送って夕飯の支度をしてから出勤することもできますし、早めに仕事を切り上げて親の介護をすることもできます。

労働者自身の生活スタイルにあわせ、自由な働き方ができる点は大きなメリットでしょう。

通勤ラッシュを避けて出社できる

一般的な会社員の場合、8:30や9:00の始業時刻にあわせて通勤しますので、同じ時間帯に通勤ラッシュが起こります。

特に都心の通勤ラッシュはすさまじいものがあり、仕事への集中力を削ぐ要因ともなっています。

フレックスタイム制であれば、通勤ラッシュ時間を割けて出勤できるため、ストレスが軽減され、仕事への良い影響が考えられます。

満員電車の中で起こりがちや痴漢やスリなどの犯罪被害にも遭いにくいでしょう。

仕事の効率が上がる

仕事をしていれば、「今日はいまいち集中できないから帰りたいな」と感じることがあります。

そんな日は好きなことをして気分転換をし、もう一度仕事に戻れば集中できるかもしれません。

あるいは、仕事自体を切り上げて翌日にまわし、今日という1日はリフレッシュに充てることもよいかもしれません。

しかし、就業時間が定められている職種だと、最低限、就業時間中は仕事をしなければなりませんので、そうした工夫をすることは難しいものです。

この点、フレックスタイム制であれば、自身の集中力が発揮され、アイデアが豊富にでるときに仕事をするなど、効率のよい仕事につながります。

人件費の削減につながる

企業側の導入メリットとしては、残業代などの人権費が削減されることです。

労働基準法の原則では、1日8時間、1週間で40時間を超えて働かせる場合は、企業は割増賃金の支払いが必要になります。

しかし、フレックスタイム制の場合は、清算期間における所定労働時間を超えていなければ残業代を支払う必要がありません。

もっとも、深夜割増や休日割増は、労働基準法の原則通り適用されますので、深夜労働や休日労働をした場合には、その分の割増賃金の支払いは必要となります。

フレックスタイム制のデメリット

フレックスタイム制には一定のデメリットも存在します。

自己管理能力が必要

労働者自身には自己管理能力が求められます。

いつ出勤しても退勤してもよいとはいえ、清算期間における所定労働時間は決まっていますので、その分は働く必要があります。

また、社内の人やクライアントとの打ち合わせがある場合には、自分自身で出勤時間などを調整していきます。

「他人から強制されなければ重い腰が上がらない人」「時間にルーズな人」などは、フレックスタイム制が逆効果になってしまうこともあるでしょう。

たとえば、「今日は眠いから出勤は午後からにしよう」などといつも自分に甘くなり、作業効率が下がってしまうことも考えられます。

打ち合わせや会議など他の社員と時間をあわせることが難しい

社員たちが全員フレックスタイム制で、それぞれ自由な時間に出社し、帰宅するような仕組みになっているとしましょう。

フレックスタイム制導入企業とはいえ、完全に個人で仕事をするわけではありませんので、打ち合わせや会議などで社員たちが集まることが必要になります。

このとき、社員同士の予定をあわせることが難しくなります。

制度を悪用されやすい

企業側がフレックスタイム制についてしっかり把握し、適切に運用していればよいのですが、中には「残業代を支払わなくてもよい」という部分にだけフォーカスし、悪用してしまう企業があります。

前述した通り、清算期間における所定労働時間を超えた場合は、フレックスタイム制であっても時間外労働の割増賃金が発生します。

しかし、「フレックスタイム制だから残業代なんてでないよ」と、割増賃金の支払いをしないわけです。

労働者自身も、制度についてよく知らない場合や、知ってはいるけれど雇用される立場上強く言えない場合などは、泣き寝入りになることも珍しくありません。

偽フレックスタイム制には注意

企業側がフレックスタイム制を間違って解釈し、あるいは悪用し、労働者が泣き寝入りしてしまうことは避けたいものです。

偽フレックスタイム制には十分注意しましょう。

たとえば、次のようなケースには気をつけるべきです。

必ずしなければならない残業がある

必要な残業について、「お願い」という形で企業から労働者に対してなされることはあるでしょう。

しかし、フレックスタイム制は、総労働時間のうち、労働者の裁量で始業・終業時刻を決めることができるため、「〇時まで残って仕事をしなさい」と残業を強制することはできません。

強制的な残業が当たり前になっているとすれば、それはもはやフレックスタイム制ではありません。

決められた時間に出社しなくてはならない

残業と同様に、出社時間が限定されることもフレックスタイム制とは異なるものです。

労働者自身の裁量で毎朝9:00に出社することは問題ありませんが、「9:00には朝礼があるから必ず出社するように」などと強制することはできません。

コアタイムの範囲外なのに会議や打ち合わせに参加しなければならないときは、労働者が個別に同意している必要があります。

企業側から強制参加させることはできません。

最後に

いかがでしたか?今回は、フレックスタイム制について、概要や注意点を中心に紹介しました。

転職を考える先でフレックスタイム制を導入しているのであれば、運用の実態を把握しておく必要があります。

企業側の誤用や悪用もあり得る制度であるため、気をつけなくてはなりません。

とはいえ、求職者の立場では確認する術が見つからないこともまた事実です。

その場合は、転職エージェントなどを利用して確認してもらうと、スムーズに、かつ信ぴょう性の高い情報を得ることができます。

適切にフレックスタイム制を導入している企業への転職が成功すれば、今より自由で柔軟な働き方も叶うことでしょう。