会社員なら管理職を目指すことが当たり前とされてきた時代が終わり、今は出世しない生き方が注目されています。
出世したくないという気持ちは「逃げ」や「諦め」だと言われることがありますが、果たして本当にそうなのでしょうか。
今回は、出世しない生き方をテーマに、出世したくない理由や出世しない場合の注意点、判断基準などを紹介します。
目次
出世は「諦める」ではなく「したくない」時代
出世を希望しない生き方と聞くと、以前では「出世できないから諦める」と捉えられがちでした。
しかし、現代は「できないからしない」のではなく、そもそも「したくない」と考える人が増えています。
男性社員でも5割~6割、女性に至っては8割以上が出世したくないと感じているようです。
これは、さまざまな機関が若手や中堅社員に調査した結果からも明らかです。
しかし、企業側はいまだに出世を前提としたキャリアを提示してきます。
本当は出世などしたくないのに、出世を希望しなければ居心地が悪くなる職場にストレスを感じている人もいるでしょう。
女性に関しては、国や企業は管理職への登用を推奨していますが、女性自身が希望していないことから、そこには大きな温度差が生まれています。
今どきの会社員が出世したくない理由
では、今どきの会社員が出世したくないのはなぜなのでしょうか。
従来の考え方からすれば、会社員である以上、出世して役職がつくことがステイタスでした。
しかし、今ではそうした考え方よりも、マイナス面に着目する人が多いようです。
サービス残業をさせられるから
サービス残業を自ら積極的におこなっていた、愛社精神あふれる「企業戦士」たちは過去の人です。
今の会社員は「サービス残業なんてありえない」と考えます。
今はインターネットを通じて、労働基準法などの知識を簡単に得られる時代ですから、サービス残業をさせられること自体がおかしいとも知っているでしょう。
しかし実際のところ、出世して管理職になれば、企業が法律の抜け穴を利用して管理職にサービス残業をさせることなど日常茶飯事です。
こうした理不尽に出世への意欲がそがれ、「出世なんてしてもろくなことがない」と考えるようになっています。
出世する、しないの話は抜きにしても、「仕事時間<私生活の時間」と考える人が多い時代。
残業そのものにアレルギー反応を示す人は少なくありません。
目指すべきリーダー像が存在しないから
すぐ近くに目標となるリーダーがいれば、「自分も出世してあの人のようになりたい!」と感じるでしょう。
しかし、抜群のリーダーシップを発揮する人に出会える確率は低く、多くの企業でもリーダーの不在が問題となっています。
むしろ、リーダー像を間違えて捉えたパワハラ上司に出会ってしまい、仕事に行きたくなる確率の方が高いかもしれません。
自分たちより上の世代に目指すべきリーダーが存在しないのに、出世してよい管理職になれと言われても、難しいというもの。
このように考える若手や中堅社員が増えており、出世したくないとの考えにつながっています。
責任が増えるから
出世して管理職になれば確実に責任が重くなります。
重い責任を負った結果、それ以上に得るものがあればよいのかもしれません。
しかし実際には、責任の重さの割に給与や評価にそこまで反映されないという現実があります。
今は副業や投資などで稼ぎやすい時代にもなっていますので、出世だけが稼ぐ手段ではないことも影響しています。
「管理職になったって、割にあわない」というわけです。
言うことを聞かずに好き勝手やる部下たちの面倒を見ることを嫌だと感じる人もいます。
特にできない部下がいる場合、何度もミスをし、想定していないトラブルに発展することがあります。
出世して管理職になれば部下のミスの責任もとらなくてはなりません。
なまじ仕事ができる人ほど「なぜできない部下のフォローをしなくてはならないのだろう」と、イライラが募るようになります。
会社の将来性に不安を感じるから
出世自体をしたくないというより、今の会社の将来に希望がもてないことも理由です。
理想的な素晴らしい会社に就職し、会社の明るい将来が見えているような状況であれば、「出世も悪くない」「この会社で定年まで頑張ろう」と思うことがあるでしょう。
しかし、劣悪な労働環境で働かされたり、食品偽造をおこなったりする企業の体質を見て、「こんな会社で出世しても意味がない」「いずれ転職するから興味がない」と思うようになります。
ひとつの会社に長く勤めあげるという終身雇用制度が崩壊した今、出世に価値を見出すことが難しくなっています。
人間関係のストレスが多いから
平社員の頃と比べ、人間関係のストレスも増幅します。
同僚や先輩たちなど同じ部署の人にだけ気を使っていればよかった頃とは違い、中間管理職は常に板挟み状態です。
部下たちへの指導、上からのプレッシャー、労働組合への対応、派閥争いに出世競争と、人間関係にまつわるストレスは多数存在します。
ストレス社会において、人との関わりを避け、自分のしたいようにする正直な生き方がスポットライトを浴びるようになっています。
出世して名誉や多少の給与アップを得るよりも、できるだけストレスなく、平穏に生きたいと考える人たちにとって、出世はマイナス要因でしかないのです。
出世しない生き方はここがメリット
出世しないということには、メリットとデメリットがあります。
まずはメリットです。
出世しない生き方を希望する人は、出世しないことにどのようなメリットを感じているのでしょうか。
精神的に気楽
出世しなければ自分の仕事だけに集中することができ、精神的に気楽です。
部下のミスの責任をとることもありませんし、自分がミスをすれば反対に上司が責任を負ってくれます。
人間関係のストレスも出世する場合より限定されますので、多少の嫌なことがあってもやり過ごすことが可能です。
家族や恋人との時間を大切にできる
管理職になれば、部下たちに残業をさせて自分だけ定時帰りはなかなかできないものです。
特に部下たちからの評判や周囲の目が気になる人ほど難しいでしょう。
毎日帰りが遅くなり、家族や恋人との時間がとれない管理職は多いものです。
出世して管理職になったことで、家族や恋人と距離ができ、別れてしまう人の話は珍しくありません。
一方、平社員のままなら、効率よく仕事を終わらせ、定時で帰ることも可能です。
時代的に残業削減の流れが進んでいますので、定時帰りによって評価を下げることも減ってきています。
定時で帰った後は、自分の趣味や好きな人たちとだけの時間を楽しむことができます。
出世を目指さないから周囲との付き合いは必要最低限で済むでしょう。
不必要に飲みに行く必要もありませんし、休日のゴルフに同行する必要もありません。
転勤が少ない
全国転勤がある企業の場合、出世と転勤は切っても切れない関係です。
出世を目指す以上、多くの場合では転勤経験が求められます。
全国転勤を拒否すれば、出世の道は閉ざされることと同じことを意味しています。
しかし逆をいえば、出世しないことで転勤を回避できることになります。
地元を離れたくない人や、家族を自分の仕事に振り回したくない人、持ち家がある人など、転勤はできればしたくない人が多いです。
出世をしない代わりに転勤もしないで済むのなら、メリットは大きいと考えることがあります。
雇用が守られやすい
出世して管理職になると、会社の不祥事が起きたときなどに責任をとらされて辞めることもあり得ます。
管理職は労働組合の組合員にもなれませんので、いざというときに守ってくれる人もいません。
ただし、これは会社の考え方にもよります。
出世を望まない者に対して「意欲が無い者」と評価する会社も少なくありません。
出世希望者に仕事を奪われ、居心地が悪くなるなどして辞めてしまうことは考えられるでしょう。
自分のやりたい仕事ができる
本当はエンジニアの仕事が好き、現場の営業職が好き…。
やりたい仕事があって続けていても、出世すればそれも叶わなくなります。
出世を目指す以上は仕事の選り好みはできませんので、嫌な仕事や苦手な仕事も積極的にこなして、上にアピールしていかなくてはなりません。
出世しない生き方を選んだ時点で、自分のやりたい仕事に専念しやすくなります。
派閥争いに巻き込まれずに済む
会社組織には多かれ少なかれ派閥争いが存在します。
出世希望者はどの派閥に所属するのかによって出世可能性が大きく変わりますので、見極める目も必要ですし、派閥の実力者にはときに媚びを売る必要もあるでしょう。
出世を希望しなければ、こうした派閥争いとは距離を置くことができます。
人間関係のストレスが格段に減ることは大きなメリットでしょう。
出世しない生き方はここがデメリット
出世しないことはメリットが大きいように思えますが、やはりデメリットもあります。
出世しない生き方を選ぶ前に、出世しないことで何が起きるのかも知っておきましょう。
給与が上がりにくい
会社員の給与が上がるタイミングは、ベースアップでもない限り、毎年の定期昇給か管理職昇進のときがメインです。
頑張って資格を取得したとしても資格手当は微々たるものというケースも多いでしょう。
大幅な給与アップを狙うにはやはり出世がもっとも適した方法です。
平社員のままでいると定期昇給を楽しみにするしかありませんので、給与にはさほど期待できません。
普通の生活ができれば十分、といった妥協も必要になります。
自分のやり方が通らないことが多々ある
出世しないことで、家族や恋人との時間が取りやすくなるとお伝えしました。
一方で、出世して自分のやり方を貫き通すことで、むしろ早く帰ることができ、私生活との両立が叶えている人もいます。
特に女性管理職のように、家事育児と仕事との両立を必ず成功させたいという強い意志がある一部の人は、出世することで残業のない職場を自ら作り上げたケースもあります。
とはいえ、出世する人の多くは男性か、未婚の女性が多いため、やはり出世が私生活の時間を侵害するケースの方がまだまだ多数派といえるでしょう。
マネジメント能力が身につきにくい
出世しなければ、仕事におけるマネジメント能力を得る機会を失うことになります。
マネジメント能力は、転職において武器になります。
特に35歳以上の人が転職する場合は、マネジメント能力が選考結果に大きな影響を与えますので、そのときになって出世しない生き方を選んだことを後悔するかもしれません。
また、マネジメント能力は、将来起業を目指す人なども必須の能力です。
現状に満足せず、どのような形にせよ上を目指す人ほど、役職についておくメリットがあります。
社会的な地位や名誉が得られない
仕事内容や給与へ一定の満足感が得られた後、次に求めるのは社会的な地位や名誉です。
特に男性はそうした欲求が強い傾向にあります。
出世しなければ、実務でよほどの功績を残さない限り、社会的な地位や名誉を得ることは難しくなります。
これは価値観によるところが大きいですが、承認欲求が大きい人ほど、出世しないことの弊害を感じやすくなるといえるでしょう。
年齢が上がったときの価値が少なくなる
20代、30代のうちは出世しなくても特に気にならない点が多いかもしれません。
しかし、40代後半、50代にさしかかったとき、「役職がつかないオジサン、オバサンの平社員」と捉えられることがあります。
高いスキルがあり、その道を極めてきたような人であれば、後輩たちからも尊敬され、それなりに居場所もあるでしょう。
しかし、「出世するとストレスが溜まるから」という理由で出世を拒み、なおかつ同じ会社に居続けようとしてきた人は、居心地の悪さを感じる可能性はあるでしょう。
子どもから尊敬を得られない?
お子様がいるご家庭では、「パパは課長さんだよ」などと、妻が子どもに誇らしげに言うシーンがあるかもしれません。
子ども心にも「課長のパパはすごい!」など、よく意味が分からないなりに親を尊敬することがあるでしょう。
出世しなければ子どもからの尊敬を得る機会がひとつ減ることになります。
とはいえ、今どきの子どもは「ユーチュバーになりたい」という時代。
今の子どもたちが大人になる頃には、管理職に価値を感じる子が果たしてどれくらいいるのかといった疑問は残ります。
出世したくない人への注意事項
出世したくない人は、出世のメリット・デメリットを比較し、今後の道を慎重に選ぶ必要があります。
意志表示をしっかりおこなう
通常、管理職になれる人の割合はそうでない人よりも少ないため、出世を希望しないのに勝手に出世することはありません。
出世したくてもできない人も多数います。
しかし、疑問をもちつつ本心とは異なる行動をとることで、いつの間にか係長、課長と昇進してしまい、後になって「出世なんてしなければよかった」と感じる人もいるようです。
出世したくないのであれば、意志表示をしっかりおこないましょう。
この意志表示は、上司や職場、家族に対してだけでなく、自分自身へのものでもあります。
早めに意思表示をしておくことで、ゴール設定ができ、今何をするべきなのかが見えてくるからです。
仮に途中から出世したくなっても、若い頃から努力してきた人と比べて大きく出遅れることにもなります。
できるだけ早い段階で意思表示をしておくことでキャリア形成がスムーズになるでしょう。
出世以外に生き残る道を見つける
勘違いしがちなのは、出世しなくても今のまま定年まで働き続けられると思ってしまうことです。
企業にはこれから若い人が入ってきますし、年齢だけが上がって努力をしない「ぶら下がり社員」を雇い続ける余裕はありません。
もし「出世はしたくないけれど、今の会社で働き続けたい」と思うなら、出世以外に生き残る道を見つけることです。
具体的には、高度な専門スキルや知識を身につけるなどし、リーダー以外の立場で会社に貢献する道です。
出世しない人は評価されず冷遇されるような会社なら、常に転職を視野に入れ、会社を移るということでステップアップを目指していく必要もあります。
「出世を目指します!」と宣言することは、ある意味会社に忠誠を誓うということ。
反対に、出世を希望しない以上、会社からは扱いにくい人物になることがあると覚えておきましょう。
出世したくないけど出世するべき?判断基準とは
本心では出世したくないけれど、デメリットを考えると出世するしかないのかも…。
このように、出世を目指すべきか否か迷うことがありますが、何を基準に判断すればよいのでしょうか。
将来どうなりたいのかキャリアプランを明確にする
まずは、ご自身のキャリアプランを明確にすることです。
5年後、10年後の職業人生をよくイメージし、どのような自分になっていたいでしょうか。
仕事で認められ、給与もアップし、部下たちをまとめている自分をイメージするのであれば、出世を目指すべきです。
一方、自分の好きな仕事だけを続けていきたい、ストレスなく人生を送りたいと思えば、出世しない生き方もよいでしょう。
今、何を大切にしたいのかだけでなく、将来的に何を守っていきたいのかもあわせて考えるようにしたいところです。
生涯収入を計算してみる
業界ごとの平均給与相場を確認するとき、年齢階層別に見る人は多いはずです。
30代はいくらくらい、50代になるとこのくらい、といった具合です。
しかし、こうした収入相場は管理職の人も含まれていますので、出世しない場合は平均より低くなると想定してください。
特に年齢が高くなると「この年齢なら〇〇万円くらいもらって当然」と勘違いしやすいですが、平社員の場合は想像しているよりも少ないことが珍しくありません。
これを踏まえ、生涯自分はどれくらい稼げるのか、子どもの進学などにも対応できるのかといった点をある程度把握しておきましょう。
出世しない分給与アップには期待できませんので、副業や投資など、別の手段を用いて家計収入を増やすことも検討しなくてはなりません。
最後に
いかがでしたか?今回は出世しない生き方に着目し、出世したくない理由や注意点を紹介しました。
出世しないことは、メリットだけでなくデメリットも存在します。
目先の楽さだけでなく、仕事や家庭生活の将来も見据え、出世しない生き方を選ぶべきか慎重に判断しましょう。