自分の研究が製品になる、好きな分野で仕事ができる。
こんな理由から、研究開発職への転職を考えたことがないでしょうか。
社会人になった今からでも目指すことは可能なのか、どんな仕事をするのか、気になることがあるかもしれません。
そこで今回は、研究開発職の仕事、転職事情を紹介します。
研究開発職とは
研究開発職の仕事内容や働く場所、年収など、仕事事情を見ていきましょう。
基礎研究と応用研究の違い
研究開発職とひとくちに言っても、基礎研究なのか、応用研究なのかによって研究内容や目的が大きく異なります。
基礎研究とは、広く長期的な視点から、対象物の性質や動作、技術を研究することを指します。
特別な用途や短期的な収益を目的としておらず、幅広い分野へ影響を及ぼす可能性のある研究です。
大学や公的研究機関で研究者たちがおこなう研究が分かりやすい例です。
一方、応用研究とは、基礎研究を発展させ、工業化、利益化が目的の研究です。
物質や動作の特性をどのように製品化に結びつけるのか、市場ニーズにあった製品にするためにはどうすれば良いのか、といったことを研究します。
多いのは企業の研究開発部門に所属し、企業の社員として研究や商品開発に取り組むケースです。
研究開発職の仕事内容
研究開発職の仕事内容は、企業や機関によって大きく異なります。
企業の研究開発部門であっても、扱う製品や研究開発職の職務範囲によって、どこからどこまでを担当するのかも違います。
少し具体的に見ていくと、たとえば以下の仕事をおこないます。
- 市場や他社動向の調査、分析
- 安全性や効果の確認
- 新商品のコンセプト確立
- 試作品の検討、試作、検証、改善
- データ回収、分析
- 営業同行、商品説明
研究開発職への転職を希望する場合は、具体的な仕事内容まで確認しておくと良いでしょう。
研究開発職になるには
そもそも研究開発職になるには、理学部、工学部、農学部などの理系学部の大学、大学院を卒業していることが大前提です。
企業へ就職するには、修士号を取得していることが現実的には必要です。
博士号取得ともなれば、卒業時の年齢が20代後半から30代と高いこと、専門性がかなり深いことから、企業ではなく大学や研究機関での研究者を目指すことが一般的です。
一般的には、学歴がなくても、仕事の能力が高ければ希望の仕事に就くことができると言われることが多くあります。
しかし、研究開発分野は学歴が非常に重視されます。
学歴条件を満たしていない人は、特筆すべき知識や研究実績がない限り、研究開発職の仕事に転職することはかなり厳しいかもしれません。
研究開発職が働く場所
研究開発職が働く場所は、たとえば
- 大学、研究機関
- 食品メーカー
- 化粧品メーカー
- 製薬会社
- 自動車メーカー
などがあります。
企業への転職の場合は、メーカーや商社の子会社などが選択肢に入ります。
大手に限らず、中小企業やベンチャー企業でも研究開発職を募集していることがありますので、転職先の幅はそれなりにあると言えます。
研究開発職の年収相場
研究開発職と聞くと、高年収のイメージを持たれる方が少なくありません。
確かに、大手メーカーの研究開発職の中には、年収1000万円を超えるような人もいて、夢のある職種でもあります。
大手メーカーの研究開発職の年収相場は、500~800万円ほどあるとも言われています。
一方で、同企業の他職種とさほど変わらない年収の研究開発職もいます。
具体的には年収300万~400万円程度というケースも決して珍しくはありません。
また、成果が給与に反映されやすい評価体制なのか、成果を挙げても個人への還元はないのか、企業や機関の考え方によるところも大きいです。
大手か中小企業かによっても全く違うでしょう。
研究開発職だから必ずしも高年収になるわけではなく、所属先によって変わると思っておきたいところです。
研究開発職の苦労
研究開発職は、しばしば「暇そう。」「ルーティン作業が多くて楽そう。」などと言われることがあります。
実際には、世間的なイメージと異なり、苦労も多い職業です。
研究開発職の苦労を見ていきましょう。
同じ作業を地道に繰り返す
研究開発職の仕事では、ある計画を元に、実験、検証、改善を繰り返しおこなうため、同じような作業が続くことが多々あります。
条件を少しずつ変えていく中で、より適したものを見つけ出すという、気が遠くなるような作業です。
忍耐強く、地道にコツコツと努力していける人でなければ、研究を続けることが難しいと言えるでしょう。
納期に追われることも
のんびりと研究できるイメージのある研究開発職ですが、納期に追われることも多々あります。
たとえば、流行や季節にちなんだ商品を開発する目的や、競合他社が次々と新しい技術を開発しているような中では、厳しい納期の中で研究成果を求められることがあります。
コンビニのように、新商品が次々を発売されることで価値を出している業界では、納期が短く、研究開発職も激務になります。
研究が終わるまで帰れず、残業になってしまうこともしばしば。
定時で帰れると思われがちですが、そうではない日も多いのです。
成果を出さなければ研究が打ち切りになる
研究開発職の仕事はルーティン化しやすいと言われますが、工場のライン作業のような単純作業とは別物です。
ルーティンだと割り切っておこなえば良いものではなく、頭を使い、研究成果を残さなくてはなりません。
企業や研究機関は、成果の出ない研究に対して、費用を投入して永遠に作業させるわけにはいきませんので、成果次第では研究が打ち切りになってしまう可能性もあります。
研究開発職たちは社内で肩身の狭い思いをしたり、思うような結果が出ないことに焦ったりすることもあるでしょう。
研究開発職の魅力
研究開発職に就くと、長く続ける人が多いと言われます。
それは、研究開発職の仕事に魅力があるからです。
研究開発職にはどんな魅力があるのでしょうか。
好きな分野の研究を仕事にできる
研究開発職の大きな魅力は、自分が興味のある分野の研究を仕事にできる点です。
学生時代から好きだったことを仕事にできていることで、やりがいを感じやすく、楽しさもあるでしょう。
勉強を続けていくことも、苦になりません。
好きなことで給与を得ている実感から、精神的に安定しやすいとも言われます。
製品をヒットさせたときの喜び
研究開発によって企業独自の発見があったり、製品のヒットにつながったりすることは、大きな達成感につながります。
自身の研究が世の中を動かすことの醍醐味があります。
研究開発に多額の投資をしてきた企業や機関にとっても、明確な結果が出ることはもっとも望ましいことでしょう。
結果的に、研究開発部の評価、社内での地位向上、給与アップなどにつながる可能性があります。
研修などを通じて知識を深めることができる
自分一人で何かを研究するには、研究自体に費用がかかることはもちろん、セミナーや書籍購入など勉強にもお金が必要です。
企業や研究機関に所属して研究をしていれば、研修などを通じて自己負担なく知識を深めることができます。
周囲も勤勉な研究開発者たちですから、向上心を高く保ち、学びのモチベーションとすることもできるでしょう。
研究開発には自己研鑚が必須ですが、研究開発部に所属することで、その環境は整っていると言えます。
給与や福利厚生に恵まれている
所属先にもよりますが、研究開発部門を持つ企業には大手メーカーが多いため、給与や福利厚生に恵まれることが多々あります。
特に食品メーカーや化粧品メーカーはホワイト企業が多いとも言われます。
年収については前述した通りですが、大手は特に福利厚生が恵まれているため、賞与や退職金のほか、女性の育児休暇が取得しやすいといったメリットもあります。
もっとも、ホワイト企業かどうかは企業ごとに大きく異なりますので、転職の際には個別の企業研究を欠かさずにおこなう必要があります。
研究開発職の適性
研究開発職は学力が高いだけではなく、研究者としての適性が求められる職種です。
どんな人が向いている仕事なのでしょうか。
チャレンジ精神があり好奇心旺盛な人
研究開発職はまだ工業化されていないものを研究開発したり、より良いものに改善したりする仕事ですから、チャレンジ精神が必要です。
与えられた仕事を目的なくこなす受け身の姿勢では、世の中を動かす研究成果は出ないでしょう。
自社製品についてだけではなく、世界や市場の動向に敏感で、幅広い知識を持っている必要もあります。
意外な知識と専門知識が結びつき、思いもかけない商品開発につながることもあるため、好奇心旺盛でいろいろなことに興味を持つ人の方が向いています。
勤勉な人
研究開発職のほとんどは大学院卒の優秀な人材です。
そのうえで、今ある知識だけではなく、常に新しい知識や技術を吸収していくことで、時代の変化に対応できる研究開発につながります。
そのため、単に高学歴者であるだけでなく、長期的にも勤勉で研究熱心な人に適性があります。
仕事以外にもセミナーや講演会、勉強会に参加するなどし、自己研鑚をおこなっていくことは、研究開発者にとっては当たり前のことなのです。
忍耐強く粘り強い人
研究に失敗はつきものですが、そのたびにへこたれてしまう人では研究開発職は務まりません。
失敗してもその内容を分析し、新しいトライをおこなっていくため、気持ちを切り替える力も必要になります。
何度も同じ作業を繰り返すことで飽きたり諦めそうになったりしますが、忍耐力と粘り強さで続けていくことが大切です。
柔軟な発想ができる人
机上の知識だけにとらわれず、柔軟な発想力と想像力を駆使してこそ、新しい商品や技術の開発につながるものです。
イメージを膨らまして仮説を立て、実験によって検証していくことで、深い知識を形に変えていくことができます。
この点、学力が高い人は知識だけで頭が凝り固まりやすいと言われがちですが、柔軟性も兼ね備えている、真の頭の良さとも呼べるものが必要になります。
コミュニケーション能力の高い人
研究開発は個人の力だけで成し遂げることはできませんので、チームプレイを重視できる人が向いています。
周囲とコミュニケーションを取りながら、協力して進めていくだけでなく、自分が研究したい内容や結果を伝える力も必要です。
プレゼンや顧客への説明をおこなう機会もありますので、分かりやすく説明することも大切です。
研究開発職というと、コミュニケーションが苦手な人でも取り組めるイメージがあるかもしれません。
特に理系学部出身者はコミュニケーションが苦手な傾向がありますが、むしろコミュニケーション能力は高くなくてはなりません。
組織に属して研究をおこなう以上、コミュニケーション能力は必須であると思っておきましょう。
研究開発職の転職事情
これから研究開発職に転職を考えている人に向けて、転職事情を紹介します。
求人は多い?少ない?
研究開発職の求人は決して多くありません。
そもそも研究開発職は営業や販売のように大量に募集する職種ではありませんし、新卒か経験者の採用を基本としています。
さらに辞める人も少ないため、たまたま空きがでた枠に募集する形となります。
ただ、求人が全く無いわけではなく、一般的な求人媒体や企業HPから探すことが可能です。
特に大手転職エージェントや転職サイトのように、求人件数が多く、幅広い職種の求人を扱っている媒体であれば、希望の求人が見つかりやすくなるでしょう。
また、研究開発職を多く扱っている特化型の転職エージェントも、独自案件を扱っている確率が高く、コンサルタントの専門知識が高いため有効な方法です。
いずれにせよ、転職には少し時間がかかることを覚悟のうえ、今の仕事を続けながら転職活動をすることが大切です。
未経験から転職することが可能なのか
結論からいえば、未経験から研究開発職への転職はかなり厳しいと言えます。
研究開発職自体の求人が少ないため、経験者であったとしても転職は狭き門です。
職種の性質上、専門性が高く、長年の積み重ねが物を言うため、未経験からスタートすることは実務上の問題も生じます。
ただし、求人を探すと、研究開発職の募集で「未経験者歓迎」「研修あり」といった内容を見かけることがあります。
つまり、可能性はゼロではないということですが、現実問題としては、20代前半や第二新卒あたりの未経験者を想定しているケースが多くなります。
どうしても挑戦したいのであれば、挑戦機会はあるわけですが、かなり厳しいと思っておく必要はあります。
年齢による制限はあるのか
年齢の壁については、研究開発職であっても、他職種と同じようなことが言えます。
若い方が有利に働きやすいけれど、キャリアがあれば年齢が上がっても転職チャンスがあるのです。
年齢がある程度上の場合、研究開発職としての経験があることが大前提ですが、管理職経験があるとなお良いでしょう。
40代くらいまでであれば、転職の可能性はあります。
未経験の場合は20代が限度だと思っておきたいところです。
競業避止義務の問題
研究開発職は、企業利益の根幹となる情報を握っている、秘匿性の高い部署に所属しています。
そのため、入社時や退社時に「秘密保持契約書」を締結していることがあります。
これは、会社の機密事項や顧客情報など、働くうえで知った情報を外部に漏らさないことを約束したものです。
そしてこの契約の中には、「競業避止義務」として、「退職後二年間は競業他社に転職を禁ずる」などの文言が組み込まれていることがあります。
競業避止義務とは、競合する企業への転職や起業の際、前職で得た知識や技術、ノウハウなどを利用してはならない規定です。
憲法で職業選択の自由が保障されていることから、基本的にはどんな仕事へ転職しようと自由です。
しかし、競業避止義務に違反した場合の法的有効性や範囲は、ケースや転職者の立場によっても異なり、場合によっては前の勤務先から訴えられる可能性も生じてしまうため、慎重になるべき問題でもあります。
転職前には、競業避止義務があるのか、他社へ転職した場合にどうなるのか、弁護士などの専門家に相談することも必要です。
転職した後のキャリアパス
研究開発職へ転職した後のキャリアパスが分からずに不安を感じることもあるでしょう。
研究開発職のキャリアパスはどうなっているのでしょうか。
ひたすら専門性を高める
研究開発職一筋という道です。
研究開発職は長期的な専門性が必要ですから、研究開発だけを続けてきた人が、必ず求められます。
ただし、経験を積み、年齢が上がってくると、管理職や異動の打診などで、現場から離れる機会が増えてきます。
一旦研究開発職に就いたからといって、必ずしも好きな研究開発のみを続けられるわけではないと思っておきましょう。
特に大手は部署異動が多く、成果主義の側面が強いため、成果次第では早々に他部署への異動もあり得ます。
営業や製造部門へ異動する
研究開発職の異動先として、営業や製造部門が考えられます。
研究開発の段階から製品に携わってきた専門性の高い人は、営業や製造でも、その知識や経験を大いに生かすことができるからです。
また、品質管理を経験しておくことで、研究開発に役立てる、転職機会を増やすこともできることから、品質管理部門への異動を希望する人もいます。
研究開発職の中には、これらの部署異動を経験し、他部署での仕事の楽しさに目覚めてその道を歩む人、そこでの経験を活かして再度研究開発職に戻ってくる人などがいます。
多数の部署を経験して管理職になる
営業や製造部門などの関連部署をすべて経験すると、管理職への道が開けます。
管理職になる人のほとんどは研究開発部門から一旦出ており、幅広い経験を積んでいます。
そのうえで研究開発部門へ戻り、研究開発の知見があるマネージャーとして部署をまとめることが王道です。
そのまま技術部門のトップとして経営に関わる立場になる人も出てきます。
管理職になれば会社からの評価の証であり、年収がアップする可能性がかなり高まるため、キャリアパスとしては多くの人が目指すべき分かりやすい形と言えます。
最後に
いかがでしたか?今回は、研究開発職の仕事、転職事情を紹介しました。
研究開発職は苦労が多い分、魅力ある職種ですから、転職したいと考える人もいるでしょう。
専門性の高さや学歴が問われる点などから、転職は容易ではありませんが、条件を満たす人であれば挑戦する価値があります。
多くはありませんが求人もありますので、こまめにチェックしてみてはいかがでしょうか。